蒸し暑く、薄暗く、足場が悪い。
東南アジアの人口は多い。しかし、そのほとんどは都市部に集中している。アジア人は西洋人と違い、家に広さを求めない。故に、人口密度が高くなるのだ。
だが、それに慣れていない白人どもは、このジャングルの中で戸惑う。無駄に水を消費し、無駄に食料を消費し、結局、無駄に体力を消費するのだ。
勿論、それは死に直結する。
ふん、関係あるものか。いや、むしろ好都合だ。奴らが体力を失っている時、俺達は影から忍び寄り、静かに殺すんだ。
グリーンベレー?知ったものか。所詮白人ではないか。
だが、今度の敵は違う。
今度の敵は、日本人だ。
くそ、何処の野郎だ。あの国が、戦争が出来ないなどと言ったのは。冗談ではない。
七十年前のあの国を忘れたのか?あの時、このジャングルを誰よりも利用したのは日本人ではないか。
いや、今だって、狭くてごちゃごちゃした場所で戦うのは、あの国のお家芸なのだ。今の日本陸軍――自衛隊とか言う奇妙な名前のついたあの軍隊だ――だって、狭い場所を想定した戦闘訓練をしているじゃないか。
はん。手が震えてきたよ。
自衛隊特殊部隊……雑兵すら洒落にならない力を持っている軍の、特殊部隊だと?
くそ、ふざけやがって。いったい何処から情報が漏れたんだ。仲間は次々と見つかり、摑まったというじゃないか。
莫迦どもめ。摑まったら、どうなるか分かってるのか?情報を吐かせるのは日本人じゃないんだぞ。中国人どもだ。奴らは精神的に追い詰めて吐かせる日本式の、暴力を使わない取調べなんて知らないからな。ただただ拷問にかけられるに決まっている。
は、俺はそんなことにはならない。ちくしょう、手が震える。
ドアが強引に開けられた。最初の一人が中を確認する。莫迦め!
俺は手に持ったものを見せ付けてやった。は、たいしたものだ。ネゴもフリーズも、こっちを殺そうとすらしない。当然だな。この位置関係で止められるわけが無いからな。
はは、なんて練度の高い奴らだ。だが、この火薬庫のような小屋から逃げられるとは思えねぇな。
「はは、ははは……」
思わず声が漏れた。いや、本当に愉快だな。
だから俺は……ピンを抜いた。
ドカン、だ。ちくしょうめぇ!